QT延長症候群(LQTS)について
◆ QT延長症候群(LQTS)の概要
心筋細胞の電気的な回復時間が長くなる(延長する)ことで生じる疾患のことで、心電図上のQT時間が延長します。
失神発作が繰り返し起こり、突然死に至ることもあるリスクのある疾患です。
後述しますが、原因には先天性と後天性の2つがあるといわれています。
◆ LQTSの病態
- 先天性LQTS
- 後天性LQTS
◆ 先天性LQTS
これは子どもや若者に多く、遺伝の影響が示唆されています。
心筋イオンチャネル(K+チャネル・Na+チャネル)の機能異常が原因になります。
このイオンチャネルの異常を伴う遺伝性疾患として以下の2つがあります。
- Romano-Ward症候群
- Jervell and Lange-Nielsen症候群
Romano-Ward症候群
K+チャネルやNa+チャネルに遺伝子異常を伴うもので、常染色体優性遺伝の疾患です。
Jervell and Lange-Nielsen症候群
K+チャネルに遺伝子異常を伴うもので、常染色体劣性遺伝の疾患です。
Romano-Ward症候群ではみられない、先天性の難聴が認められます。
これらは発作がないときには無症状ですが、運動をしたり、興奮したり、そしてびっくりするだけでも失神発作が誘発されることがあります。
先天性LQTSは2,500人に1人程度の患者様が存在しているといわれています。
◆ 後天性LQTS
後天性LQTSの原因として以下の3つが代表的です。
- 薬剤性
- 高度な徐脈
- 低カリウム血症
薬剤が原因となる種類
- 抗不整脈薬
(キニジン、プロカインアミド、ジソピラミド、ベプリジル、ソタロール、ニフェカラント、アミオダロン etc…) - 向精神病薬
(クロルプロマジン、ハロペリドール、フェノチアジン etc…) - 抗生剤
(クラリスロマイシン、エリスロマイシン、スバルフロキサン、ペンタミジン etc…) - 抗がん剤
(ドキソルビシン、亜ヒ酸 etc…)
高度な徐脈を誘発する疾患
- 完全房室ブロック
- 洞不全症候群(SSS)
その他、原因となる病態
電解質異常では低カリウム血症が代表的ですが、低マグネシウム血症でも原因となることが報告されています。
また、可能性は低いですが、クモ膜下出血や頭蓋内出血、うっ血性心不全でも原因となることがあります。
◆ LQTSの心電図所見
非発作時のLQTSの心電図ではQT延長症候群という名の通り、心電図上のQT間隔が延長します。
QT間隔とは心筋の収縮開始から弛緩終了までの時間を表していまして、下図のような心電図波形を示します。
◆ torsade de pointes(TdP)
QT延長はtorsade de pointes(トルサード・ド・ポワント)という特殊な心室頻拍を引き起こすことがあります。
重症な不整脈の代表格で、心拍数200〜250回/分で心室頻拍のような心電図となって、あたかもQRSがねじれたような形となり、QT間隔の延長が認められます。
自然に停止する場合が多いですが、中には致命的な心室細動(VF)へ移行して、突然死することもあるため、注意が必要な疾患になります。
おわり。
低カリウム血症とは?リハでのリスク管理について
◆ カリウムの役割とは?
カリウム(K)は細胞内のおける重要な陽イオンで、体内に存在するカリウムのほとんどが細胞内に存在しています。
細胞内に存在することで、神経や筋の興奮や情報伝達の作用を有しています。
そのため、カリウム濃度に異常がでると意識障害や筋力低下・脱力、不整脈、心電図異常など様々な症状が出現してしまうのです。
◆ 低カリウム血症とは?
低カリウム血症とは、体内のカリウム濃度が少なくなった状態のことです。
血液検査で血清カリウム濃度が「3.5mEq/L」より少ない場合に診断されます。
ただし、炎症などで白血球が著明に増加している場合、採血後の試験管を室内に放置している間にカリウムが細胞内に取り込まれる現象が生じて、見かけ上のカリウム数値が低くなることもあります。
このことを「偽性低カリウム血症」といい、血液データの解釈に十分な注意が必要です。
◆ 低カリウム血症の合併症とは?
低カリウム血症の合併症として、以下の2つが訓練をするにあたって重要な症状になります。
今回はその中でも不整脈の出現する機序について記載していきます。
◆ 不整脈が出現する理由とは?
まず、QT延長症候群とは心電図上のQT間隔が延長する状態のことです。
QT間隔とは心室の興奮が回復するまでの時間を示していますので、心室回復が遅れることがこの疾患の特徴です。
このQT延長症候群はtorsades de pointesという特殊な心室頻拍(VT)もしくは心室細動(VF)などの重症不整脈を引き起こしてしまう疾患です。
電解質(Kイオン、Naイオン、Caイオン)が細胞に出入りすることで、電位差(電気刺激)が発生し、心筋は収縮することが可能になります。
つまり、電解質異常を起こすと心筋収縮を起こせなくなり、不整脈や最悪の場合、心停止に陥ることもあります。
では次に心筋細胞の興奮メカニズムについて記載していきます。
心筋はNaイオンが細胞内に流入してくることで脱分極(興奮)し、Kイオンが細胞内に流入してくることで再分極(弛緩)します。
心電図で表すと、QRS波がNaイオン流入による脱分極、T波はKイオン流入による再分極となります。
しかし、低カリウム血症は細胞外のKイオン濃度が低い状態なので、脱分極のあとに再分極しようと思ってもKイオンが細胞内へ流入しにくい状態なのです。
そのため、心室の再分極が遅れて、心電図上でQTが延長してしまうのです。
低カリウム血症ではQT延長症候群をはじめとする不整脈が出現する可能性があるので、橈骨動脈を触知して、脈のリズムを確認することが重要になります。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
中心性脊髄損傷とは?下肢よりも上肢の感覚が障害を受ける理由とは?
◆ 中心性脊髄損傷とは?
近年、高齢者に好発し、注目されている疾患です。
「中心」とは脊髄の中心のことを指し、脊髄の中心部が障害される疾患のことです。
脊髄損傷は大きく「完全脊髄損傷」と「不完全脊髄損傷」に分けられますが、中心性脊髄損傷は「不完全脊髄損傷」の特殊型に分類されています。
脊髄損傷は年間に約5000人もの人が受傷されていて、非骨傷が4割、骨傷が6割と報告されています。
しかし、中心性脊髄損傷がどの程度の割合なのかは不明なので根拠はないですが、超高齢社会となった今、確実にこの疾患が増加傾向を示しています。
◆ 中心性脊髄損傷の特徴とは?
中心性脊髄損傷は下記のような臨床的特徴があります。
- 下肢より上肢に強い運動麻痺
- 感覚障害
- 多くは非骨傷性損傷
- 突発的な四肢麻痺
- 比較的予後良好
◆ 中心性脊髄損傷の受傷機転とは?
中心性脊髄損傷を受傷するのは主に高齢者であると記載させていだきました。
中心性脊髄損傷は後縦靱帯骨化症(OPLL)や脊柱管狭窄症などの疾患が基盤にある状態で転倒などによる頸部の過屈曲・過伸展の外力が加わって受傷します。
高齢者は脊柱管狭窄症など脊柱管が狭小化していることが多く、かつ転倒するリスクも高いため、高齢者に好発してしまうのです。
脊髄損傷と聞くと、骨傷性を思い浮かべることが多いですが、中心性脊髄損傷の場合は上記のような受傷機転のため、骨折や脱臼などを伴わない非骨傷性の脊髄損傷として発症することが多いです。
そのため、レントゲンなどで骨折や脱臼所見がなくとも脊髄損傷を来している可能性があるので、見落とさないよう理学的所見をとることが重要なのです。
◆ 中心性脊髄損傷の主な症状とは?
中心性脊髄損傷の特徴的な症状として「下肢よりも上肢が障害され、かつ感覚障害を呈しやすい」ということです。
その他の症状として、
- 下肢運動麻痺(上肢>下肢)
- 上肢運動麻痺(上肢>下肢)
- 膀胱直腸障害
- 多彩な感覚障害
- 手指巧緻運動障害
などがあります。
前述したように中心性脊髄損傷では「上肢の感覚障害が顕著に出現する」ということをまず覚える方が先手だと思います。
◆ なぜ、上肢の感覚が優位に障害されるのか?
まず、下肢よりも上肢に障害が出現しやすいということに関しては「Foresterのラミネーション仮説」で説明がつきます。
Foresterのラミネーション仮説とは脊髄内伝導路の横断面で外側が下肢、内側は上肢へ皮質脊髄路が走行投射する地図が存在しているという仮説のことです。
つまり、中心性脊髄損傷の場合、脊髄の中心部が損傷するため、損傷部により近いのは下肢よりも上肢や頸部となります。
よって、中心性脊髄損傷では下肢と比較して上肢に障害が生じやすいのです。
【ラミネーション仮説の否定】
ヒトでの脊髄レベルでの皮質脊髄路に層状構造が存在することは解剖組織学的での実証は得られていないことや、MRI画像と解剖検例からの脊髄内病態の検討からも中心性脊髄損傷では髄内出血などはむしろ少なく、前角などの灰白質病変ではなく皮質脊髄路の役割が指摘されている。富永俊克(2008)「中心性頸髄損傷の急性期臨床像の特徴と治療転帰」
次に感覚障害が出現しやすいということに関しては「伝導路の通過部位の違い」によって説明できます。
運動機能を司る皮質脊髄路(錐体路)は大脳皮質の1次運動野から上位運動ニューロンが出て、内包後脚・中脳大脳脚を通過し延髄錐体へ下行していきます。延髄錐体で対側へと交叉し、脊髄側索を下行していき、脊髄前角で下位運動ニューロンとシナプスを形成します。
このことから中心性脊髄損傷を受傷していても皮質脊髄路は脊髄の中心部を通過せずに下行していくので、運動機能は保たれるのです。
一方で感覚機能を司る脊髄視床路は皮膚や粘膜の感覚受容器が感覚を受容した後、1次ニューロンは後根神経節を通過して後角で2次ニューロンとシナプス結合します。
そして、この2次ニューロンはそのまま対側へと交叉し、上行して脳幹を通過して視床で3次ニューロンとシナプス結合します。
このことから脊髄視床路は感覚受容後すぐに脊髄の対側へと交叉します。
つまり、対側へ交叉する際には脊髄の中心部を通過しますので、中心性脊髄損傷では損傷レベルに応じた感覚障害が出現してしまうのです。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
- 中心性脊髄損傷は脊柱管の狭窄などが基盤にあった状態で頸部の過屈曲・過伸展で受傷することが多い。
- 中心性脊髄損傷の特徴的な症状として、「上肢の感覚障害」である。
- 理由として、脊髄中心部に上肢の伝導路投射領域が多いことと、脊髄視床路は対側へ交叉する際に脊髄中心部を通過するためである。
◆ 参考文献
Forester O: Symptomatologie der erkrankungen des ruckenmarks und seiner wurzeln, Handbook of Neurology. Bumke O, Forester O, editors. Berlin, Springer, 1936, Vol 5, pp 83.
慢性硬膜下血腫とは?画像所見で見落としやすいポイントについて
◆ 慢性硬膜下血腫とは?
慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma)とは軽度な頭部外傷をきっかけにしばらくしてから硬膜とクモ膜の間に血腫が緩徐に溜まっていく疾患のことです。
この血腫が脳を圧迫することで様々な症状が出現します。
また、アルコールをよく飲む人や高齢者に多く、受傷後3週以降(多くは3ヶ月頃)に発症しますが、頭部外傷の記憶がないことが多いです。
◆ 硬膜下とはどこの部分?
硬膜下とは硬膜とクモ膜の間のことを指しています。
ここの空間のことを硬膜下腔ともいいます。
◆ 慢性硬膜下血腫の発症機序とは?
軽度な頭部外傷を起こすと、硬膜下に出血が生じます。
それと同時に被膜(内膜と外膜)が作られますが、その機序については未だ不明とのことです。
被膜のうち肉芽組織である外膜は血管が豊富に存在しているので、簡単に出血してしまいます。
そのため、一度出血して被膜が形成されると何度も繰り返し出血してしまうので血腫が徐々に大きくなってしまうのです。
このように出血部が凝固せず、むしろ日に日に血腫が大きくなるので受傷から遅れて症状が出現するのです。
◆ 慢性硬膜下血腫の症状とは?
慢性硬膜下血腫では前述した機序で頭蓋内の血腫が増大するにつれて様々な症状が出現してきます。
主な症状としては以下の通り、正常圧水頭症(NPH)の3大症状と類似しています。
◆ 精神症状(認知症)
血腫が大脳皮質の側頭葉を圧迫すれば記憶障害を主とする認知症が出現します。
記憶は記銘・保持・想起で構成されています。
記銘とは「学習して覚える」ことで、保持は「記憶として蓄える」こと、想起は「思い出す」ことです。
記銘や保持の一部は海馬がその役割を担っていて、保持の一部と想起は大脳皮質の側頭葉が担っています。
血腫が大脳皮質の側頭葉を圧迫してしまうと、記憶障害の中でも特に保持や想起が障害されることになります。
◆ 尿失禁
大脳皮質の排尿中枢や脳幹(PMC:橋排尿中枢)を圧迫すれば尿失禁が出現します。
膀胱内の尿量が増え、膀胱壁が伸展すると膀胱壁の伸展受容器が胸腰髄交感神経、仙髄オヌフ核を興奮させます。これにより膀胱内に尿が蓄えられます(蓄尿反射)。
また、膀胱壁の伸展受容器からの刺激は大脳皮質やPMC(橋排尿中枢)にも届けられ、尿意を感じますが、大脳皮質がPMCを抑制するために排尿は生じないようになっています。
このため、大脳皮質の排尿中枢が障害を受けるとPMCを抑制できないため、尿失禁してしまうのです。
同じようにPMCが障害を受けると抑制することができないので、排尿反射が生じてしまい、これもまた尿失禁してしまいます。
◆ 片麻痺
大脳皮質の運動野や錐体路の通過部位を圧迫すれば片麻痺が出現します。
そのため、錐体路の通過する部位が圧迫されると片麻痺が出現することになります。
この錐体路系は以下の3つからなります。
外側皮質脊髄路は延髄で交叉する経路で、障害されると弛緩性麻痺を呈します。
前皮質脊髄路は延髄で交叉しない経路で、こちらも障害されると弛緩性麻痺を呈します。
皮質延髄路(皮質核路)は脳幹に投射する経路で、脊髄まではいかず延髄で終わります。
役割として、眼球運動や顔面運動、嚥下運動を司ります。
◆ 硬膜下血腫の画像所見とは?
硬膜下血腫の画像所見では、下記のような特徴があります。
- 三日月型血腫
- midline shift(正中偏位)
- 側脳室の狭小化
血腫により脳内を圧迫することで脳の正中ラインが対側へシフトしたり、側脳室を圧迫することで側脳室が狭小化したりします。
ただし、これらの所見はリハビリにそこまで重要ではありません。
というのも、血腫が手術によって除去されると上記の所見は基本的に回復してくるため、リハビリを行うときには元に戻っていることが多いからです。
では、硬膜下血腫(特に急性硬膜下血腫)の画像所見で一番見落としがちな重要な所見といいますと、「対側の脳損傷の有無」です。
これはcontrecoup injury(コントラクー・インジャリー:対側損傷)ともいわれますが、頭部を衝突したとき脳が外傷部に移動することにより頭蓋内圧に陰圧が生じます。
この陰圧により引っ張られて対側の脳実質や血管が損傷を受けることをいいます。
contrecoup injuryが認められた場合、対側の方が損傷程度が大きいといわれています。
また、contrecoup injuryの場合、血腫を除去しても回復しないことが多いため、硬膜下血腫の画像所見では「contrecoup injuryの有無」を評価することがとても重要なのです。
◆ 慢性硬膜下血腫の予後と治療法とは?
穿頭ドレナージ術とはドレーンを出血部位に留置して、緩やかに頭外へ排液していく方法のことです。
また最近では漢方薬(五苓散など)による治療も有効であると報告されています。
慢性硬膜下血腫では上記のように血腫内容物を除去すれば症状は改善していきます。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
膝蓋上包と膝関節可動域との深い関連性について解説
◆ はじめに
膝関節は理学療法士が関わる機会の多い関節です。
その理由として、変形性膝関節症患者の増加に伴って膝関節を診る機会が増えたためと思われます。
変形性膝関節症患者の多くは「可動域制限」を有していて、その「可動域制限」が関節変形をさらに助長させてしまっているので大きな問題となっています。
しかしながら、「可動域制限」の改善に難渋する部分も多く、一向に可動域を改善できないことも多々見受けられます。
そこで今回は様々な要因がある中で膝蓋上包に焦点をあてて膝関節可動域制限との関連性について記載していきたいと思います。
◆ 膝蓋上包の概要
膝蓋上包とは滑液包のことです。
膝蓋軟骨近位と大腿骨膝蓋面近位とをつないでいます。
上図で左側の矢印(→)が膝蓋軟骨近位の付着部で、右側の矢印(↖︎)が大腿骨膝蓋面近位の付着部になります。
このように膝関節が中立位のとき、膝蓋上包は二重膜構造をしていて、膝蓋上陥凹(Suprapatellar pouch)と呼ばれる内腔が存在しているということがとても重要な機能解剖の知識になります。
◆ 膝蓋上包の機能
まず、膝蓋上包の二重膜構造ですが、これは膝関節が伸展位のときにそのような構造になります。
膝関節を屈曲していくと、下図のように膝蓋上包がキャタピラのように滑りながら膝蓋骨が遠位に滑走していくのについていきますので、深屈曲時には単膜構造へと切り替わります。
つまり、膝蓋上包が何らかの原因で癒着が生じ、滑走が障害された場合に膝蓋骨は遠位へと移動できなくなるので、膝関節の屈曲可動域制限が生じることになります。
なので、膝蓋上包の滑走機能を診ることは膝関節拘縮にとって、とても重要なことなのです。
◆ 膝蓋上包の形状を三次元で捉える
ある一方向での描出は単純明快かつ分かりやすいのですが、膝蓋上包は大きく幅を持った組織なので、一方向だけでなく三次元で捉えない限り、治療への応用は難しいのです。
では、膝蓋上包を三次元で捉えた時にどのような形状をしているのかといいますと、超音波画像でみてみると分かりやすいのです。
まず、膝蓋上包の内側の広がり方について、外側から内側へ向かって圧迫することで、内側広筋の深部に存在する膝蓋上包(水腫)が広がっている様子が確認できると思います。
また、同じような方法で膝蓋上包の外側の広がり方については内側から外側へ向かって圧迫することで外側広筋の深部に存在する膝蓋上包(水腫)が広がっている様子が確認できると思います。
この外側への広がり方は見てお分かりの通り、明らかに内側よりも広がっている様子がわかると思います。
Fig. 膝蓋上包の内側への広がり
Fig. 膝蓋上包の外側への広がり
もう一つは膝蓋上包の長軸方向への広がり方についてです。
膝蓋上包の近位への広がり幅としまして、画像幅は5cmですので、奥行きは5cm以上になることが予測されます。
Fig. 膝蓋上包の長軸方向への奥行き
つまり、内側、外側、さらには近位とあらゆる方向へ広がる組織が膝蓋上包なのです。
◆ 膝蓋上包のストレッチ方法
今までで膝関節可動域制限と膝蓋上包との関係性について重要であることがわかったと思います。
では実際にどのように膝蓋上包にアプローチすれば良いのか記載していきます。
まず膝蓋上包の位置は大腿直筋と大腿四頭筋腱の移行部付近で、内側は大腿四頭筋腱から2〜3cm内側、外側は大腿四頭筋腱から4〜5cm外側に存在しています。
これを理解した上で、大腿直筋腱移行部の上に指を添えます。
内側への広がりを出したい場合はその添えた指を時計回りに円を描くように回しながらリリースし、逆に外側への広がりを出したい場合には反時計回りに円を描くように回しながらリリースを行なっていきます。
実際に膝蓋上包が癒着している場合には膝蓋上包特有のツルツル感がなくて瘢痕組織のような硬さを触れることができます。
◆ 引用画像・参考書籍
坂井建雄・松村譲兒(2011)『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系』p.445, 三報社.
林典雄(2015)『運動療法のための運動器超音波機能解剖 拘縮治療との接点』pp.115-121, 文光堂.
変形性膝関節症とは?関節水腫に対する運動療法をご紹介
◆ 変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症(knee osteoarthrosis:knee OA)とは、膝関節軟骨の退行性変化により骨増殖性変化や滑膜炎症を生じることで、関節の変形や破壊をきたしてしまう疾患のことです。
obesity(肥満)による影響が大きいとされていて、変形性膝関節症発症の多くは1次性(原発性)になります。
◆ 変形性膝関節症の症状とは?
変形性膝関節症の症状は主に下記の4つになります。
- 変形(内側型の場合、内反変形)
- 疼痛
- 関節腫脹
- 関節可動域制限
◆ 内反変形(内側型)
進行に伴って、膝関節内側の軟骨摩耗により膝が本来運動しない内反方向へ変形(O脚)していきます。
これはFTA(femoral tibial angle:大腿脛骨角)を測定すれば、変形度合いを評価できます。
◆ 疼痛
変形性膝関節症の初期では動作開始時の疼痛(starting pain)が特徴的です。
例えば、椅子に座って1時間くらいテレビを見て、いざ立ち上がろうとしたときに膝に痛みが出現するような症状です。
これは、滑液が関係しているといわれています。
どういうことかといいますと、変形性膝関節症患者では滑液循環が悪化しており、不動状態が続くと関節内の下方へ貯留していってしまいます。
滑液が下方へ貯留している状態は関節内のクッション作用が低下することになるので、荷重をかけることにより疼痛が出現してしまうのです。
長時間不動が続いた時には軽く膝を屈伸して滑液循環を良くしてから動くと痛みが軽減することが多いです。
◆ 関節腫脹
変形性膝関節症は変性疾患ですが、二次的に滑膜炎を起こすことが多いです。
二次性の滑膜炎により滑液が過剰に分泌され、関節内に貯留することで関節腫脹を来してしまいます。
これは膝蓋跳動(ballottement of patella)の有無を評価することで関節水腫による影響なのかを判断することができます。
膝蓋跳動検査(ballottement of patella test
では、なぜ関節水腫が貯留してしまうかといいますと、進行に伴って関節軟骨が摩耗していきますが、それにより半月板の変性・断裂、関節内遊離体が生じてしまうからです。
この関節内遊離体が関節内から関節包内側(滑膜)を刺激することで反応性の滑膜増殖を引き起こし、滑液を過剰に分泌する方向へシフトしてしまうのです。
関節水腫に関しては関節穿刺により関節液を除去することで関節水腫はなくなります。
この関節穿刺は医師しか実施できませんので、関節水腫の貯留を主治医に報告することが重要になります。
では、関節水腫に対してセラピストができる治療はあるのかといわれますと、実はあります。
それは「quadriceps setting(大腿四頭筋セッティング)」です。
十分な筋収縮を伴ったquadriceps settingを行うと、大腿四頭筋腱が膝蓋上包を強く圧迫し、関節水腫の改善に効果的であるといわれています。
◆ 関節可動域制限
すると、立脚後期の股関節伸展が生じにくくなり、腸腰筋による弾性エネルギーが供給できず、遊脚期を随意的に遂行しなければならなくなります。
このように膝関節は中間関節であるため、可動域制限はADLの各場面における動作に大きな悪影響を与えてしまうのです。
よって、膝関節可動域制限を改善するエクササイズも重点的に行う必要があります。
膝関節屈曲可動域に関する知識についてはこちらの記事も読んでみてください。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
- 変形性膝関節症の疼痛はstarting painが多く、その対処法としては動作開始時に軽負荷の自動運動を数回行うこと。
- 膝関節水腫の除去でセラピストができるエクササイズとして、強い収縮を伴ったquadriceps settingである。
- 変形性膝関節症患者の膝関節可動域制限は可能な限り来さないようにして、可動域制限があっても改善させるエクササイズを実施していく必要がある。
肺胞低換気とは?肺胞低換気が生じてしまう理由を各疾患ごとに解説
◆ 低酸素血症とは?
低酸素血症とはPaO2が60Torr(mmHg)を下回る場合と定義されています。
PaO2とは動脈血酸素分圧のことで、動脈血中に存在している酸素の圧力を表しています。
大気中から取り入れられた酸素は肺胞を介して動脈へ取り込まれますが、このとき動脈へ取り込まれる酸素の分圧が低いと低酸素血症になってしまいます。
◆ 低酸素血症の原因とは?
低酸素血症の原因には以下の4つがあります。
今回は肺胞低換気について説明させていただきます。
◆ 肺胞低換気とは?
肺胞低換気とは「肺胞換気量」が減少している状態のことです。
肺胞換気量とは単位時間に肺胞に流れ込む新鮮なガス量のことです。
つまり、肺胞換気量が少ないために肺胞に到達する酸素が不足する結果、低酸素血症を呈してしまうのです。
また、肺胞低換気の場合、酸素不足になるだけでなく、二酸化炭素の排出も困難になるので低酸素血症に加えて高二酸化炭素血症も合併しやすくなります。
換気量の減少は高二酸化炭素血症を引き起こすことになるのです。(重要)
これらの関係は以下の計算式で表すことができます。
ここでまず、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が増加すると動脈血に二酸化炭素がたくさんあるということになりますので、高二酸化炭素血症を呈するということになります。
一見、難しそうな計算式ですが簡単に考えていきます。
今回は肺胞換気量と二酸化炭素分圧の関係について示していきたいので、この2つに着目します。
VA(肺胞換気量)が分母にあるということはVA(肺胞換気量)が増大すればするほど、その数値は小さくなっていくということになりますね。
つまり、VA(肺胞換気量)が増大するとPaCO2は減少していく関係にあるのです。
このようにPaCO2と肺胞換気量は逆比例関係にあるということが分かります。
◆ 肺胞低換気の代表疾患は?
肺胞低換気の代表疾患には以下の4つがあります。
- 神経筋疾患
- 胸郭変形
- COPD etc…
◆ 神経筋疾患で肺胞低換気を呈する理由
脳幹、脊髄、末梢神経、神経筋接合部、骨格筋などの障害による神経筋疾患では換気障害により肺胞低換気を来してしまいます。
代表的な神経筋疾患といえば、重症筋無力症や筋ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、筋萎縮性側索硬化症などです。
これは呼吸筋力低下が原因で引き起こされます。
神経筋疾患では四肢筋力だけでなく呼吸筋力も低下しますので、吸気筋力の低下により十分な吸気を行うことができない結果、新鮮なガスを肺胞へ流せないのです。
また、呼気筋も同様に障害を引き起こしますので、十分な呼気を行うことができない結果、重症例では二酸化炭素の排出も困難になってしまいます。
◆ 胸郭変形で肺胞低換気を呈する理由
胸郭が側弯や円背などにより変形を来してしまうと呼吸運動時の胸郭運動を妨げてしまいます。
胸郭運動が妨げられると吸気時に胸郭を拡張することができない(胸郭拡張不全)ため、十分な酸素を肺へ取り込めなくなります。
よって、胸郭変形では肺胞低換気を引き起こしてしまうのです。
◆ COPDで肺胞低換気を呈する理由
末梢気道病変とは慢性気管支炎によって末梢気道の気管支に炎症が生じた状態のことであり、気道壁の肥厚や粘液貯留によって気道の狭小化を来してしまう状態のことです。
気道が狭小化することで十分な酸素を肺へ取り込めなくなるので、肺胞低換気を来してしまうのです。
気腫性病変とは喫煙など有害物質により肺胞が破壊されていき、肺胞弾性収縮力が低下することにより肺胞内圧が下降する状態のことです。
肺胞弾性収縮力が低下するということは呼気ができないので、二酸化炭素の排出が困難になります。
つまり、高二酸化炭素血症を呈してしまうのです。
また、最後までしっかりと吐ききれないということは次に最大限まで吸うことができないので、吸気量の減少も加わってきます。
よって、COPDでは肺胞低換気を引き起こしてしまうのです。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部