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理学療法士による暇つぶしブログです。

内側広筋・外側広筋のトレーニング方法〜大腿直筋の活動を抑制して広筋群の活動を高める!

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筋力トレーニングで大腿四頭筋を鍛えるときにレッグエクステンション(座位の状態から膝関節のみを伸展させる)をよく実施している光景を目にします。



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従来のレッグエクステンション



このようなレッグエクステンションは大腿四頭筋の中でも「二関節筋である大腿直筋が優位に活動する」ことがmfMRIを用いて大腿四頭筋の活動状態を調査した研究によって明らかになっています(Akima H, 2004)(Enocson AG, 2005)。


【mfMRIとは?】
muscle functional magnetic resonance imaging:骨格筋機能的磁気共鳴映像法のこと。横緩和時間(T2値)への変化をもとにして、運動前後における筋の活動レベルを測定できる。T2値は筋放電や運動強度との間の正の相関があり、表面筋電図では測定困難な深層筋の活動レベルも測定できる。



また、2013年に深井らは膝OA患者を対象に歩行中における大腿四頭筋のEMGパワースペクトル解析を行った研究を報告しており、大腿直筋の筋活動が大腿広筋群の筋活動よりも高く、二関節筋優位の運動制御を行っていることが明らかになったのです(深井, 2014)。



では、二関節筋優位な筋活動ではどのようなデメリットがあるのでしょうか?



この問いに対して福井らは二関節筋優位な筋活動による関節運動では、関節面に十分な軸圧がかからず、前後左右の並進運動を生じさせてしまうことで、変形性疾患(股OAや膝OAなど)の発症や増悪を招いてしまう恐れがあると述べています。(福井, 2005)。



つまり、単関節筋は関節安定化作用に貢献するので、二関節筋が優位に活動してしまうと、骨頭を関節窩に引きつけられず、回転軸が作れなくなるので、関節は不安定になるのです(木藤, 2006)。



これらの他に二関節筋は関節可動域の制限因子になりやすいこと(Elfmon H, 1966)、加齢変化に伴い、単関節筋は萎縮しやすいのに対して、二関節筋は萎縮しにくいこと(奈良, 2008)などが報告されています。



つまり、大腿四頭筋のトレーニングを行う際には可能な限り大腿直筋の活動を抑制した状態で大腿四頭筋のトレーニングを実施することが重要なのです。



そのため、今回は大腿直筋を抑制した上で内側広筋・外側広筋を効果的にトレーニングする方法について紹介していきたいと思います。


◆ 大腿広筋群を効率よく鍛えるにはローイング動作



「ローイング動作」はご存知でしょうか?



ローイング(rowing)とは、日本語で「漕艇」という意味で、いわゆる「ボート漕ぎ運動」です。どのような運動なのかは動画をご参照ください。




ボートのローイング動作における筋活動の可視化/Visualization of muscle activity for rowing motion




このようなローイング動作が大腿直筋の活動を抑制した状態で大腿広筋群に刺激を与えてくれると現代の研究が証明しています。



Emaらは運動習慣のない一般学生とローイング動作を繰り返すボート選手の外側広筋(VL)、内側広筋(VM)、中間広筋(VI)、大腿直筋(RF)の筋体積を調査し、一般学生とボート選手の筋体積を比較しました。その結果、ボート選手ではVL、VM、VIの筋体積は有意に大きかったにも関わらず、RFの筋体積については群間差がなかったと報告しています(Ema R, 2014)。



つまり、ローイング動作は大腿広筋群の筋肥大はもたらしますが、大腿直筋の筋肥大にはあまり関与しないことが示唆されたのです。



では、なぜローイング動作が大腿直筋ではなく大腿広筋群に効果的なのでしょうか?



その理由のひとつとして、ボート特有のローイング動作は主に股関節と膝関節の同時伸展を繰り返す動作であるということが考えられます。



大腿直筋は股関節伸展運動に関して拮抗作用を果たすため、膝関節伸展にのみ働く単関節筋に比べて脚伸展動作中には相反神経支配の影響により多くの筋線維を動員できない可能性があると考えられます。



つまり、膝関節と股関節を同時に伸展させる多関節運動では、二関節筋を抑制しながら大腿広筋群を効率よくトレーニングできるのです。



では、ローイング動作以外にペダリング運動やスクワットなどの多関節運動ではどうなのでしょうか?


◆ 運動やスクワットでも同じような効果がある



ロードアイランド大学のEarpらはスクワットやペダリング運動など、膝関節と股関節を同時に伸展させる多関節運動を数週間から数ヶ月実施しても、大腿直筋に筋肥大が全く観察されなかったと報告しています(Earp JE, 2015)。



それに加えてEmaらは自転車競技選手が実施した6ヶ月間の自転車トレーニングにより、半腱様筋を除く、大腿部の二関節筋においても筋肥大が生じなかったことを報告しています(Ema, 2016)。



やはり、股関節と膝関節を同時に伸展させるような多関節運動では、大腿直筋の活動を制限した上で大腿広筋群の活動を高めることが可能なようです。



ただし、Kumamotoらが提唱する「系先端出力分布」から考察すると、関節の運動方向によっては大腿直筋の活動が高まってしまう危険性があるのです。



それはどういうことなのでしょうか?


◆ 方向制御によるトレーニン



京都大学Kumamotoらは足関節中心を各矢印の方向に運動した際、どのような筋活動が生じるのか述べています。



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Fig.1:Kumamoto M,1997より筆者制作



A-B方向の運動(下腿に鉛直な方向)では、股関節単関節筋群の活動が高まり、C-D方向の運動(足関節と股関節を結ぶ方向)では、主に膝関節単関節筋群の活動が、E-F方向の運動(大腿部に並行な方向)では、主に大腿部二関節筋群の活動が強まると報告しています(Kumamoto, 1997)。



このように3対6筋モデルにおいて、方向制御による運動特異性があります。つまり、大腿広筋群の筋活動を特異的に高めるためにはC-D方向を意識した運動を行う必要性があるのです。



臨床場面では、セラバンドを足底部へ引っ掛け、足関節中心と股関節中心を結ぶライン上で膝関節、股関節の同時屈伸運動を実施する方法があります(Fig.2)。



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Fig.2:セラバンドエクササイズ



また、座位が不安定な患者さんの場合には、ヒールスライドを実施することで簡単に大腿広筋群の活動を引き出すことができます(Fig.3)。



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Fig.3:ヒールスライド



ただし、セラバンドの抵抗が強すぎたり、ベッドと踵の摩擦が強すぎたりすると二関節筋が運動に参画してくるので、負荷量には注意が必要です。



単関節筋を優位に活動させるための負荷量に関して、文京学院大学の福井勉氏は奈良勲氏の著書『二関節筋』の中で次のように述べています。



「単関節筋を優位に活動させるためには30〜40%MVC程度の負荷で実施する必要がある。」(奈良, 2008)



このように軽負荷で実施することが単関節筋の筋活動を引き出すためのポイントなのです。


◆ レッグエクステンションを用いる際のポイント



患者さんによっては単純明快な運動のほうが望ましい場合もあります。



たとえば、認知症の患者さんで複雑な運動指示の理解が困難な場合はよくありますよね。このような場合、どのようにして広筋群を効率よくトレーニングすれば良いのでしょうか?



Taninoらは健常成人10名を対象にレッグエクステンションを行う際の骨盤肢位の違いが大腿四頭筋の各筋活動に与える影響について検討しています。対象とした筋は大腿直筋(RF)、外側広筋(VL)、内側広筋斜走線維(VMO)で「骨盤前傾位」、「骨盤中間位」、「骨盤後傾位」、「骨盤最大後傾位」の4種類の各肢位において、膝伸展等尺性収縮中の筋電図を記録しました。



その結果、「骨盤前傾位・中間位」での膝伸展運動でVMOのみが有意な筋活動増大を示しました(Tanino Y, 2008)。



つまり、レッグエクステンションを実施する際には「おへそを前に出して胸を張ってください」と指示をして、骨盤前傾位へ誘導することで、内側広筋を優位にトレーニングできる可能性が示唆されます。


◆ 参考文献


Akima H, et al. Coactivation pattern in human quadriceps during isokinetic knee-extension by muscle functional MRI. Eur J Appl Physiol 2004;91:7-14.

Enocson AG, et al. Signal intensity of MR-images of thigh muscles following acute open- and closed chain kinetic knee extensor exercise-index of muscle use. Eur J Appl Physiol 2005;94:357-363.

深井健司・他.変形性膝関節症患者の歩行時の膝関節伸展筋群における質的筋活動分析.第49回日本理学療法学術大会(横浜) 2014

福井勉・他.リハビリテーション領域における単関節筋トレーニングの応用ー 単関節筋の選択的トレーニング方法の開発ー .理学療法 2005;21(7):1123-1128.

木藤伸宏・他.関節病態運動のメカニズム.理学療法 2006;23(10):1403-1413.

Elfmon H. Biomechanics of the muscle with pareticular application to studies of gait. Bone Joint Surg 1966;48:363-377.

奈良勲・他.二関節筋ー運動制御とリハビリテーション.第1版.東京:医学書院;2008, 146-150.

Ema R. Inferior muscularity of the rectus femoris to vasti in varsity oarsmen.Int J Sports Med 2014;35(4):293-297.

Earp JE, et al. Inhomogeneous quadriceps femoris hypertrophy in response to strength and power training. Med Sci Sports Exerc 2015;47: 2389-2397.

Ema R. Unique muscularity in cyclists' thigh and trunk: A cross-sectional and longitudinal study. Scand J Med Sci Sports 2016;26:782-793.

Kumamoto M, et al. Coordinated activities of the antagonistic pairs of mono and bi-articular muscles in the human upper extremity and their control properties. Proceeding of the 9th International Conference on Biomedical Engineering 1997.

Tanino Y, et al. How do you select the pelvic position during the leg−extension exercise ? Kansai University of Health Sciences 2008;2:32-37.