内頸動脈梗塞の脳画像は分水嶺領域に着目すべき!
◆ 内頸動脈梗塞とは?
内頸動脈は、アテローム血栓性脳梗塞の好発部位として知られています。
- 血栓性機序
- 塞栓性機序
- 血行力学的機序
の3つがあります。
そのうち血行力学的機序による脳梗塞で、今回着目すべきポイントである「分水嶺領域」の梗塞が生じます。
アテローム血栓性脳梗塞の発症機序や好発部位について詳しくは以下の記事をご参考下さい。
◆ 内頸動脈とは?その解剖と走行
内頸動脈(ICA)とは前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)、前脈絡叢動脈、後交通動脈(P-com)に枝分かれをする主幹となる動脈のことです。
脳への血液供給は、内頸動脈と椎骨動脈の枝によって行われていますので、内頸動脈はとても重要な血管です。
内頸動脈の走行
まず、大動脈弓から腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本の枝が出ます。右側は腕頭動脈を介してから右総頸部動脈と左鎖骨下動脈に枝分かれをします。
このうち総頸動脈は、頸動脈三角内の甲状軟骨上縁のレベルで内頸動脈と外頸動脈とに分かれます。この分岐部には頸動脈小体が存在しており、血中の酸素や二酸化炭素の量を感知し、呼吸数の調整に関与しています。
また、内頸動脈の起始部は少し膨隆しており、ここに頸動脈洞と呼ばれる血圧受容器が存在しています。頸動脈洞は、血圧変化を捉えて血圧調整に関与しています。
総頸動脈から枝分かれをした後は、一切枝分かれをせずに頸動脈管を通過して頭蓋内に入って、ここで眼動脈を分岐します。その後、サイフォン部と呼ばれるU字状の蛇行を作って前大脳動脈と中大脳動脈に分岐します。
このサイフォン部もアテローム血栓性脳梗塞の好発部位として、よく知られています。
◆ 分水嶺領域とは?その特徴とは?
分水嶺領域とは、簡単に言うと境界領域のことで、各動脈の支配領域の境界にあたり、動脈から遠い位置にある脳の領域のことです。
脳梗塞の梗塞巣は、閉塞血管の支配領域に沿って出現するのが一般的です。
しかし、分水嶺領域の梗塞では、隣り合う血管からも血液が供給されるため、1つだけの血管閉塞では梗塞にならないことが多いのです。
その反面、血圧低下などで複数の血管の血流が乏しくなった際には、どの領域よりも早く分水嶺領域が梗塞巣となってしまう特徴があります。
◆ 分水嶺領域の場所と対応する障害とは?
分水嶺領域は下図の薄黄色印の領域になります。
つまり、大脳前方部では前頭前野、前上方部は前頭眼野・背側運動野・補足運動野、上方部は体幹や下肢の感覚・運動野、後方部は頭頂連合野にあたります。
まとめると、
- 前頭眼野の障害=眼球運動障害
- 背側運動野・補足運動野の障害=予測的姿勢制御の破綻、肢節運動失行
◆ 脳画像でみる分水嶺領域
大脳基底核レベルのMRI横断像では、下図のような血管支配領域を示します。
そのため、各血管支配領域の境界部が分水嶺領域となるのです。
ここからもう少し細かく分けると、
と分けることができます。
◆ 皮質型分水嶺領域
ACAとMCAの前方型とMCAとPCAの後方型に分けられます。皮質境界領域のことで、塞栓性によるものが多いとされています。
◆ 深部型分水嶺領域
ACA・MCA・PCAのような皮質領域を支配している皮質枝と深部領域を支配している穿通枝との境界のことです。血行力学性による分水嶺梗塞では、皮質型よりも深部型のほうが多いとされています。
◆ 実際の分水嶺領域梗塞症例
右図のMRI拡散強調画像で黄色で囲んだ部位に高信号域が認められます。ここはMCAとPCAの境界領域で、MCA-PCA後方型の皮質型分水嶺梗塞であることがわかります。
2つの血管が同時に障害されることで、出現すると推測される症状の数は一気に増えます。
今まで上図の画像評価で、後大脳動脈領域の梗塞だと思い込んでいたとしたら、これからは一歩踏みとどまって、分水嶺梗塞の可能性を考えるだけで治療や目標設定の展開が変わってくると思います。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部