膝蓋上包と膝関節可動域との深い関連性について解説
◆ はじめに
膝関節は理学療法士が関わる機会の多い関節です。
その理由として、変形性膝関節症患者の増加に伴って膝関節を診る機会が増えたためと思われます。
変形性膝関節症患者の多くは「可動域制限」を有していて、その「可動域制限」が関節変形をさらに助長させてしまっているので大きな問題となっています。
しかしながら、「可動域制限」の改善に難渋する部分も多く、一向に可動域を改善できないことも多々見受けられます。
そこで今回は様々な要因がある中で膝蓋上包に焦点をあてて膝関節可動域制限との関連性について記載していきたいと思います。
◆ 膝蓋上包の概要
膝蓋上包とは滑液包のことです。
膝蓋軟骨近位と大腿骨膝蓋面近位とをつないでいます。
上図で左側の矢印(→)が膝蓋軟骨近位の付着部で、右側の矢印(↖︎)が大腿骨膝蓋面近位の付着部になります。
このように膝関節が中立位のとき、膝蓋上包は二重膜構造をしていて、膝蓋上陥凹(Suprapatellar pouch)と呼ばれる内腔が存在しているということがとても重要な機能解剖の知識になります。
◆ 膝蓋上包の機能
まず、膝蓋上包の二重膜構造ですが、これは膝関節が伸展位のときにそのような構造になります。
膝関節を屈曲していくと、下図のように膝蓋上包がキャタピラのように滑りながら膝蓋骨が遠位に滑走していくのについていきますので、深屈曲時には単膜構造へと切り替わります。
つまり、膝蓋上包が何らかの原因で癒着が生じ、滑走が障害された場合に膝蓋骨は遠位へと移動できなくなるので、膝関節の屈曲可動域制限が生じることになります。
なので、膝蓋上包の滑走機能を診ることは膝関節拘縮にとって、とても重要なことなのです。
◆ 膝蓋上包の形状を三次元で捉える
ある一方向での描出は単純明快かつ分かりやすいのですが、膝蓋上包は大きく幅を持った組織なので、一方向だけでなく三次元で捉えない限り、治療への応用は難しいのです。
では、膝蓋上包を三次元で捉えた時にどのような形状をしているのかといいますと、超音波画像でみてみると分かりやすいのです。
まず、膝蓋上包の内側の広がり方について、外側から内側へ向かって圧迫することで、内側広筋の深部に存在する膝蓋上包(水腫)が広がっている様子が確認できると思います。
また、同じような方法で膝蓋上包の外側の広がり方については内側から外側へ向かって圧迫することで外側広筋の深部に存在する膝蓋上包(水腫)が広がっている様子が確認できると思います。
この外側への広がり方は見てお分かりの通り、明らかに内側よりも広がっている様子がわかると思います。
Fig. 膝蓋上包の内側への広がり
Fig. 膝蓋上包の外側への広がり
もう一つは膝蓋上包の長軸方向への広がり方についてです。
膝蓋上包の近位への広がり幅としまして、画像幅は5cmですので、奥行きは5cm以上になることが予測されます。
Fig. 膝蓋上包の長軸方向への奥行き
つまり、内側、外側、さらには近位とあらゆる方向へ広がる組織が膝蓋上包なのです。
◆ 膝蓋上包のストレッチ方法
今までで膝関節可動域制限と膝蓋上包との関係性について重要であることがわかったと思います。
では実際にどのように膝蓋上包にアプローチすれば良いのか記載していきます。
まず膝蓋上包の位置は大腿直筋と大腿四頭筋腱の移行部付近で、内側は大腿四頭筋腱から2〜3cm内側、外側は大腿四頭筋腱から4〜5cm外側に存在しています。
これを理解した上で、大腿直筋腱移行部の上に指を添えます。
内側への広がりを出したい場合はその添えた指を時計回りに円を描くように回しながらリリースし、逆に外側への広がりを出したい場合には反時計回りに円を描くように回しながらリリースを行なっていきます。
実際に膝蓋上包が癒着している場合には膝蓋上包特有のツルツル感がなくて瘢痕組織のような硬さを触れることができます。
◆ 引用画像・参考書籍
坂井建雄・松村譲兒(2011)『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系』p.445, 三報社.
林典雄(2015)『運動療法のための運動器超音波機能解剖 拘縮治療との接点』pp.115-121, 文光堂.