中心性脊髄損傷とは?下肢よりも上肢の感覚が障害を受ける理由とは?
◆ 中心性脊髄損傷とは?
近年、高齢者に好発し、注目されている疾患です。
「中心」とは脊髄の中心のことを指し、脊髄の中心部が障害される疾患のことです。
脊髄損傷は大きく「完全脊髄損傷」と「不完全脊髄損傷」に分けられますが、中心性脊髄損傷は「不完全脊髄損傷」の特殊型に分類されています。
脊髄損傷は年間に約5000人もの人が受傷されていて、非骨傷が4割、骨傷が6割と報告されています。
しかし、中心性脊髄損傷がどの程度の割合なのかは不明なので根拠はないですが、超高齢社会となった今、確実にこの疾患が増加傾向を示しています。
◆ 中心性脊髄損傷の特徴とは?
中心性脊髄損傷は下記のような臨床的特徴があります。
- 下肢より上肢に強い運動麻痺
- 感覚障害
- 多くは非骨傷性損傷
- 突発的な四肢麻痺
- 比較的予後良好
◆ 中心性脊髄損傷の受傷機転とは?
中心性脊髄損傷を受傷するのは主に高齢者であると記載させていだきました。
中心性脊髄損傷は後縦靱帯骨化症(OPLL)や脊柱管狭窄症などの疾患が基盤にある状態で転倒などによる頸部の過屈曲・過伸展の外力が加わって受傷します。
高齢者は脊柱管狭窄症など脊柱管が狭小化していることが多く、かつ転倒するリスクも高いため、高齢者に好発してしまうのです。
脊髄損傷と聞くと、骨傷性を思い浮かべることが多いですが、中心性脊髄損傷の場合は上記のような受傷機転のため、骨折や脱臼などを伴わない非骨傷性の脊髄損傷として発症することが多いです。
そのため、レントゲンなどで骨折や脱臼所見がなくとも脊髄損傷を来している可能性があるので、見落とさないよう理学的所見をとることが重要なのです。
◆ 中心性脊髄損傷の主な症状とは?
中心性脊髄損傷の特徴的な症状として「下肢よりも上肢が障害され、かつ感覚障害を呈しやすい」ということです。
その他の症状として、
- 下肢運動麻痺(上肢>下肢)
- 上肢運動麻痺(上肢>下肢)
- 膀胱直腸障害
- 多彩な感覚障害
- 手指巧緻運動障害
などがあります。
前述したように中心性脊髄損傷では「上肢の感覚障害が顕著に出現する」ということをまず覚える方が先手だと思います。
◆ なぜ、上肢の感覚が優位に障害されるのか?
まず、下肢よりも上肢に障害が出現しやすいということに関しては「Foresterのラミネーション仮説」で説明がつきます。
Foresterのラミネーション仮説とは脊髄内伝導路の横断面で外側が下肢、内側は上肢へ皮質脊髄路が走行投射する地図が存在しているという仮説のことです。
つまり、中心性脊髄損傷の場合、脊髄の中心部が損傷するため、損傷部により近いのは下肢よりも上肢や頸部となります。
よって、中心性脊髄損傷では下肢と比較して上肢に障害が生じやすいのです。
【ラミネーション仮説の否定】
ヒトでの脊髄レベルでの皮質脊髄路に層状構造が存在することは解剖組織学的での実証は得られていないことや、MRI画像と解剖検例からの脊髄内病態の検討からも中心性脊髄損傷では髄内出血などはむしろ少なく、前角などの灰白質病変ではなく皮質脊髄路の役割が指摘されている。富永俊克(2008)「中心性頸髄損傷の急性期臨床像の特徴と治療転帰」
次に感覚障害が出現しやすいということに関しては「伝導路の通過部位の違い」によって説明できます。
運動機能を司る皮質脊髄路(錐体路)は大脳皮質の1次運動野から上位運動ニューロンが出て、内包後脚・中脳大脳脚を通過し延髄錐体へ下行していきます。延髄錐体で対側へと交叉し、脊髄側索を下行していき、脊髄前角で下位運動ニューロンとシナプスを形成します。
このことから中心性脊髄損傷を受傷していても皮質脊髄路は脊髄の中心部を通過せずに下行していくので、運動機能は保たれるのです。
一方で感覚機能を司る脊髄視床路は皮膚や粘膜の感覚受容器が感覚を受容した後、1次ニューロンは後根神経節を通過して後角で2次ニューロンとシナプス結合します。
そして、この2次ニューロンはそのまま対側へと交叉し、上行して脳幹を通過して視床で3次ニューロンとシナプス結合します。
このことから脊髄視床路は感覚受容後すぐに脊髄の対側へと交叉します。
つまり、対側へ交叉する際には脊髄の中心部を通過しますので、中心性脊髄損傷では損傷レベルに応じた感覚障害が出現してしまうのです。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
- 中心性脊髄損傷は脊柱管の狭窄などが基盤にあった状態で頸部の過屈曲・過伸展で受傷することが多い。
- 中心性脊髄損傷の特徴的な症状として、「上肢の感覚障害」である。
- 理由として、脊髄中心部に上肢の伝導路投射領域が多いことと、脊髄視床路は対側へ交叉する際に脊髄中心部を通過するためである。
◆ 参考文献
Forester O: Symptomatologie der erkrankungen des ruckenmarks und seiner wurzeln, Handbook of Neurology. Bumke O, Forester O, editors. Berlin, Springer, 1936, Vol 5, pp 83.