リハゴリ

理学療法士による暇つぶしブログです。

拡散障害とは?メカニズムを知ればリスク管理のコツが分かる

◆ 低酸素血症とは?

 

低酸素血症とはPaO2が60Torr(mmHg)を下回る場合と定義されています。

 

PaO2とは動脈血酸素分圧のことで、動脈血中に存在している酸素の圧力を表しています。

 

大気中から取り入れられた酸素は肺胞を介して動脈へ取り込まれますが、このとき動脈へ取り込まれる酸素の分圧が低いと低酸素血症になってしまいます。

 

◆ 低酸素血症の原因とは?

 

低酸素血症の原因には以下の4つがあります。

 

  • 肺胞低換気
  • 拡散障害
  • 換気血流比不均等
  • 肺内シャント

 

rehagori.hatenablog.com

 

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今回は拡散障害について説明させていただきます。

 

◆ 正常を知ろう!呼吸と拡散

 

まず、拡散障害とは?の前に正常呼吸における拡散について記載します。

 

外呼吸や内呼吸によって起こるガス交換は、ガスの分圧差(圧勾配ともいう)によって拡散が生じることで行われます。

 

拡散とは分圧(濃度)が高いほうから低いほうへ、差がなくなるまで移動する現象のことです。

 

では、正常呼吸における拡散のメカニズムを図を用いて説明していきます。

 

空気を吸うと肺胞内にはだいたい100mmHgぐらいの酸素が入ってきます(PAO2:100mmHg)。

 

肺胞内に入ってきた酸素(100mmHg)はすぐに肺血管へ移動していきます。

 

このとき、酸素を各組織で使用して戻ってきた肺血管(肺動脈)の酸素量は100mmHgよりも当然少なくなっています。

 

拡散とは分圧の高いほうから低いほうへと差がなくなるまで移動する現象なので、この分圧差を利用して肺胞から肺血管へと酸素が移動していくのです。

 

拡散障害

 

また、二酸化炭素も同じようなことがいえます。

 

各組織で酸素を消費してエネルギーを生み出すときに二酸化炭素が作り出されますが、この二酸化炭素は大静脈を介して右心房→右心室→肺動脈へと流れていきます。

 

そして、二酸化炭素も酸素と同じように拡散によって肺胞へと移動していきます。

 

酸素とは逆に肺動脈中の二酸化炭素分圧のほうが肺胞中の二酸化炭素分圧に比べて高いので、肺動脈→肺胞への移動が可能になるのです。

 

これが、正常の拡散です。

 

では拡散障害とはどのような状態なのか記載していきます。

 

◆ 拡散障害とは??

 

拡散障害とは、肺胞内の酸素が肺胞毛細血管隔壁を通過して血液に入って、赤血球中のヘモグロビンに到達するまでの過程の中で障害されることです。

 

つまり、肺胞内にある酸素を血中のヘモグロビンにくっつけるまでで何らかの障害があってくっつきにくくなっている、もしくはくっつけないことを意味しています。

 

肺胞の酸素がヘモグロビンにくっつくまでの経路のどこかで異常が生じると酸素の拡散が障害されてしまうのです。

 

●酸素の拡散経路
肺胞→肺胞上皮→基底膜→間質→毛細血管内皮→血漿→赤血球膜
 

拡散経路

 

二酸化炭素は影響を受けない!?
二酸化炭素は拡散能力が高いので拡散障害の影響は受けにくいのが特徴です。そのため、拡散障害では酸素のみ影響を受けると考えます。
 

これを分かりやすく図で表すと下のようになります。

 

間質性肺炎

 

これは間質性肺炎をモデルにした図ですが、間質のところに炎症が起きて水がたまってるのが分かります。

 

間質は拡散するときに酸素や二酸化炭素が通過する場所ですが、炎症が起きて水が溜まることで通りにくくなってしまいます。

 

つまり、肺胞内の酸素を血中のヘモグロビンに送り届けれないので、低酸素血症を引き起こしてしまうのです。

 

ただし、安静時では、よほど重症でない限り酸素分圧は保たれます。

 

では、拡散障害によって低酸素血症になるのはいつなのかといいますと、圧倒的に「運動時」が多いのです。

 

なぜ、拡散障害では運動時に低酸素血症を来たしてしまうのでしょうか?

 

◆ 運動時に低酸素血症になる理由とは??

 

間質性肺炎などの拡散障害を来している場合、拡散速度を上昇することができないからです。

 

正常安静時の拡散速度は約0.75秒、運動時の拡散速度は約0.25秒であるといわれています。

 

間質性肺炎で間質に炎症が起きて、間質が肥厚してしまうと、酸素が間質を通るのに時間がかかってしまいます。

 

つまり、肺胞からヘモグロビンまで拡散する時間が長くなってしまうのです。

 

運動をすると血液の速度は上昇するため、その速度に拡散速度がついていけず、酸素と結合しないヘモグロビンがどんどん増えてしまいます。

 

その結果、SpO2は徐々に下がっていき、低酸素血症を来してしまうのです。

 

しかし、二酸化炭素は拡散能力がとても高いため、肺胞低換気を来していない限り、高二酸化炭素血症を生じることはほぼありません。

 

リスク管理のコツとは?

 

拡散障害が疑われる場合には運動時にパルスオキシメーターを常時モニタリングすることがとても重要になってきます。

 

これはSpO2の測定をリアルタイムに行えることだけでなく、脈拍数のモニタリングも同時に行えるからです。

 

低酸素血症に陥ると、組織は酸素不足になるため、心拍数を上昇させて代償してきます。

 

一見、心拍数というと「循環器系の問題」のイメージが強いですが、呼吸器系とも深く関係しているのです。

 

そのため、SpO2の測定と同時に心拍数の測定を行うというのはとても重要なのです。

 

その他にチアノーゼの有無、呼吸困難感の程度、呼吸数の評価などを実施することが望ましいでしょう。

 

安静時や強度の低い運動を行っているときは疲労感の訴えがなかったからといって、徐々に強度を上げていくと知らずの間に低酸素血症になっていることがあります。

 

そのため、強度を上げるときは上記のように適宜評価をしながら患者様の ”良い負荷” を把握することが重要です。

 

◆ 拡散障害を呈する疾患とは??

 

拡散障害を来たしてしまう疾患には、

 

 

などがあります。

 

間質性肺炎が拡散障害を来たす理由

 

間質性肺炎とは、肺間質に炎症や線維化が生じる疾患のことです。

 

炎症が慢性化すると不可逆性の線維化病変(肺線維症)に陥ります。

 

その結果、肺間質の肥厚・線維化により酸素が拡散しにくくなってしまうのです。

 

◆ 肺水腫が拡散障害を来たす理由

 

肺水腫とは、肺毛細血管から水分が血管外に漏れて異常に貯留している状態のことです。

 

どこに水分が漏れるかといいますと、肺間質もしくは肺胞腔です。

 

肺間質に水分が漏れ出すと間質性肺水腫、肺胞腔に漏れ出すと肺胞性肺水腫といわれます。

 

酸素の拡散経路を思い出すと肺胞腔も肺間質も入ってますので、それらに水分貯留することで酸素の拡散障害を引き起こしてしまうことは容易に想像できます。

 

◆ 本日のリハゴリ俱楽部

 

  • 拡散障害とは拡散経路(肺胞→肺胞上皮→基底膜→間質→毛細血管内皮→血漿→赤血球膜)のいずれかに障害を受けることで引き起こされる。ただし、障害を受けるのは原則、酸素のみで二酸化炭素は拡散能力が非常に高いため、ほとんど障害されない。
  • 拡散障害では運動時に著明な低酸素血症を呈することが特徴なので、運動中におけるモニタリングやフィジカルアセスメントを徹底する必要がある。
  • 拡散障害の代表的な疾患として、①間質性肺炎、②肺線維症、③肺水腫が挙げられる。