拡散障害とは?メカニズムを知ればリスク管理のコツが分かる
◆ 低酸素血症とは?
低酸素血症とはPaO2が60Torr(mmHg)を下回る場合と定義されています。
PaO2とは動脈血酸素分圧のことで、動脈血中に存在している酸素の圧力を表しています。
大気中から取り入れられた酸素は肺胞を介して動脈へ取り込まれますが、このとき動脈へ取り込まれる酸素の分圧が低いと低酸素血症になってしまいます。
◆ 低酸素血症の原因とは?
低酸素血症の原因には以下の4つがあります。
◆ 正常を知ろう!呼吸と拡散
まず、拡散障害とは?の前に正常呼吸における拡散について記載します。
外呼吸や内呼吸によって起こるガス交換は、ガスの分圧差(圧勾配ともいう)によって拡散が生じることで行われます。
拡散とは分圧(濃度)が高いほうから低いほうへ、差がなくなるまで移動する現象のことです。
では、正常呼吸における拡散のメカニズムを図を用いて説明していきます。
空気を吸うと肺胞内にはだいたい100mmHgぐらいの酸素が入ってきます(PAO2:100mmHg)。
肺胞内に入ってきた酸素(100mmHg)はすぐに肺血管へ移動していきます。
このとき、酸素を各組織で使用して戻ってきた肺血管(肺動脈)の酸素量は100mmHgよりも当然少なくなっています。
拡散とは分圧の高いほうから低いほうへと差がなくなるまで移動する現象なので、この分圧差を利用して肺胞から肺血管へと酸素が移動していくのです。
また、二酸化炭素も同じようなことがいえます。
各組織で酸素を消費してエネルギーを生み出すときに二酸化炭素が作り出されますが、この二酸化炭素は大静脈を介して右心房→右心室→肺動脈へと流れていきます。
そして、二酸化炭素も酸素と同じように拡散によって肺胞へと移動していきます。
酸素とは逆に肺動脈中の二酸化炭素分圧のほうが肺胞中の二酸化炭素分圧に比べて高いので、肺動脈→肺胞への移動が可能になるのです。
これが、正常の拡散です。
では拡散障害とはどのような状態なのか記載していきます。
◆ 拡散障害とは??
拡散障害とは、肺胞内の酸素が肺胞毛細血管隔壁を通過して血液に入って、赤血球中のヘモグロビンに到達するまでの過程の中で障害されることです。
つまり、肺胞内にある酸素を血中のヘモグロビンにくっつけるまでで何らかの障害があってくっつきにくくなっている、もしくはくっつけないことを意味しています。
肺胞の酸素がヘモグロビンにくっつくまでの経路のどこかで異常が生じると酸素の拡散が障害されてしまうのです。
これを分かりやすく図で表すと下のようになります。
これは間質性肺炎をモデルにした図ですが、間質のところに炎症が起きて水がたまってるのが分かります。
間質は拡散するときに酸素や二酸化炭素が通過する場所ですが、炎症が起きて水が溜まることで通りにくくなってしまいます。
つまり、肺胞内の酸素を血中のヘモグロビンに送り届けれないので、低酸素血症を引き起こしてしまうのです。
ただし、安静時では、よほど重症でない限り酸素分圧は保たれます。
では、拡散障害によって低酸素血症になるのはいつなのかといいますと、圧倒的に「運動時」が多いのです。
なぜ、拡散障害では運動時に低酸素血症を来たしてしまうのでしょうか?
◆ 運動時に低酸素血症になる理由とは??
間質性肺炎などの拡散障害を来している場合、拡散速度を上昇することができないからです。
正常安静時の拡散速度は約0.75秒、運動時の拡散速度は約0.25秒であるといわれています。
間質性肺炎で間質に炎症が起きて、間質が肥厚してしまうと、酸素が間質を通るのに時間がかかってしまいます。
つまり、肺胞からヘモグロビンまで拡散する時間が長くなってしまうのです。
運動をすると血液の速度は上昇するため、その速度に拡散速度がついていけず、酸素と結合しないヘモグロビンがどんどん増えてしまいます。
その結果、SpO2は徐々に下がっていき、低酸素血症を来してしまうのです。
しかし、二酸化炭素は拡散能力がとても高いため、肺胞低換気を来していない限り、高二酸化炭素血症を生じることはほぼありません。
◆ リスク管理のコツとは?
拡散障害が疑われる場合には運動時にパルスオキシメーターを常時モニタリングすることがとても重要になってきます。
これはSpO2の測定をリアルタイムに行えることだけでなく、脈拍数のモニタリングも同時に行えるからです。
低酸素血症に陥ると、組織は酸素不足になるため、心拍数を上昇させて代償してきます。
一見、心拍数というと「循環器系の問題」のイメージが強いですが、呼吸器系とも深く関係しているのです。
そのため、SpO2の測定と同時に心拍数の測定を行うというのはとても重要なのです。
その他にチアノーゼの有無、呼吸困難感の程度、呼吸数の評価などを実施することが望ましいでしょう。
安静時や強度の低い運動を行っているときは疲労感の訴えがなかったからといって、徐々に強度を上げていくと知らずの間に低酸素血症になっていることがあります。
そのため、強度を上げるときは上記のように適宜評価をしながら患者様の ”良い負荷” を把握することが重要です。
◆ 拡散障害を呈する疾患とは??
拡散障害を来たしてしまう疾患には、
- 間質性肺炎
- 肺線維症
- 肺水腫
などがあります。
◆ 間質性肺炎が拡散障害を来たす理由
間質性肺炎とは、肺間質に炎症や線維化が生じる疾患のことです。
炎症が慢性化すると不可逆性の線維化病変(肺線維症)に陥ります。
その結果、肺間質の肥厚・線維化により酸素が拡散しにくくなってしまうのです。
◆ 肺水腫が拡散障害を来たす理由
肺水腫とは、肺毛細血管から水分が血管外に漏れて異常に貯留している状態のことです。
どこに水分が漏れるかといいますと、肺間質もしくは肺胞腔です。
肺間質に水分が漏れ出すと間質性肺水腫、肺胞腔に漏れ出すと肺胞性肺水腫といわれます。
酸素の拡散経路を思い出すと肺胞腔も肺間質も入ってますので、それらに水分貯留することで酸素の拡散障害を引き起こしてしまうことは容易に想像できます。
◆ 本日のリハゴリ俱楽部
換気血流比不均等とは?実は健常者でも不均等だった
◆ まず、低酸素血症とは?
低酸素血症とはPaO2が60Torr(mmHg)を下回る場合と定義されています。
PaO2とは動脈血酸素分圧のことで、動脈血中に存在している酸素の圧力を表しています。
大気中から取り入れられた酸素は肺胞を介して動脈へ取り込まれますが、このとき動脈へ取り込まれる酸素の分圧が低いと低酸素血症になってしまいます。
◆ 低酸素血症の原因とは?
低酸素血症の原因には以下の4つがあります。
- 肺胞低換気
- 拡散障害
- 換気血流比不均等
- 肺内シャント
今回はその中でも換気血流比不均等について説明させていただきます。
◆ 換気血流比とは??
換気血流比不均等の説明をする前に、まず換気血流比とは何なのか説明します。
換気血流比とは、「換気」と「血流」の「比」と分けることができます。
その「換気」と「血流」が何なのか分かれば疑問はサッと解決しますね。
「換気」とは、肺胞換気量(VA)のことです。
肺胞内に存在していて、かつガス交換に関与する酸素のことですね。
「血流」とは、肺血流量(Q)のことです。肺胞を循環する血流量のことですね。
つまり、換気血流比とは、肺胞換気量(VA)と肺血流量(Q)の比のことなのです。
それぞれの頭文字をとってV/Q比(読み方:ぶいきゅーひ)ともいいます。
◆ 換気血流比の理想とは??
例えば、おおよそ100mmHgのガス交換可能な酸素が肺胞へ入ってきて、肺血管に100mmHg分の酸素がすべて拡散されるとします。
この場合、肺胞換気量(VA)100mmHgに対して肺血流量(Q)100mmHgなので100/100=1となります。
つまり、肺胞換気量と肺血流量に差がないため、換気と血流の釣り合いがとれている、とても効率の良いガス交換であるといえるのです。
このようにすべての肺胞が均等に換気され、かつ均等な血流を受けるとき(V/Q 比=1)の肺胞気ガス組成を「理想肺胞気」といいます。
ただし、健常人であってもV/Q比が必ずしも1にはならず、正常範囲が0.8〜1.2といわれています。
それはどうしてなのでしょうか?
◆ 健常人でもV/Q比が1でない理由とは?
立位や座位だと重力の影響で健常人であってもVAやQは肺尖部で小さく、肺底部で大きくなる傾向があります。
つまり、換気量や血流量の分布が重力の影響により変わってしまうのです。
換気量の分布による影響
重力の影響による換気量の分布を考えるとき、「吊り下げられたバネ」をイメージすると理解が深まります。
吊り下げられたバネは上のほうがよく伸びて、下のほうはあまり伸びないことがイメージできると思います。
この考え方を肺胞で応用してみます。
肺尖部に存在している肺胞は肺自体の重さによって、もともと引き伸ばされた状態にあります。
対して肺底部に存在している肺胞は肺尖部に比べて引き伸ばされていない状態にあります。
もともとそのような状態から空気が肺胞へ流入してくると、肺尖部に存在している肺胞の伸び率は少なく、肺底部に存在している肺胞の伸び率は大きくなることがわかります。
つまり、換気によって肺底部の方が膨らむ量は大きくなります。
そのため、肺胞換気量(VA)は肺尖部で小さく、肺底部で大きくなる分布を表すのです。
血流量の分布による影響
重力の影響による血流量の分布を考えるとき、「静水圧」をイメージすると理解が深まります。
静水圧とは・・・??
静止している液体の中の任意の面に作用する圧力。静止流体の中の面に働く応力はその面に垂直な圧力だけで,面に沿う方向のずれ応力は働かない。
もう少し噛み砕いて言うと、水中で液体同士が互いに押し合う力(圧力)のことです。
この静水圧は肺血管内径を広げて血流量を増大させる役割を担っています。
そして静水圧は液体量(血液量)が増えれば増えるほど強くなる性質があります。
静水圧についてわかったところで重力との関係について考えていきます。
重力が働くと静水圧は下の方で高くなります。
そのため、肺尖部に比べて肺底部で静水圧が高くなるということになります。
つまり、肺底部で静水圧が高いということはその分、血流量も増加するということです。
そのため、肺血流量(Q)は肺尖部に比べて肺底部で増加する分布を表します。
まとめると、立位など重力が加わっている状態では、換気量(VA)・肺血流量(Q)ともに肺尖部では減少、肺底部では増加する傾向にあります。
では、V/Q比は肺尖部と肺底部で違いが出るのでしょうか?
◆ 肺尖部と肺底部のV/Q比
肺尖部、肺底部ともに換気量(VA)、肺血流量(Q)が増加しますが、V/Q比だと肺尖部が増加し、肺底部が減少します。
これは下表の「部位による換気血流比の違い」をみてみれば一目瞭然です。
VA:Q | V / Q | |
上肺野 | 0.6:0.2 | 3.0 |
中肺野 | 1.0:1.0 | 1.0 |
下肺野 | 2.4:3.8 | 0.6 |
全体 | 4.0:5.0 | 0.8 |
上肺野(肺尖部)では前述したように換気量(VA)・肺血流量(Q)ともに少ないですが、肺血流量(Q)に比べて換気量のほうが多くなっています。
そのため、V/Q 比は高くなります。
対して、下肺野(肺底部)では換気量(VA)・肺血流量(Q)ともに多いですが、換気量(VA)に比べて肺血流量(Q)のほうが多くなっています。
そのため、V/Q比は低くなるのです。
◆ 本題の換気血流比不均等とは??
ここまでで換気量(VA)や肺血流量(Q)の特徴やそれぞれの比(V/Q 比)について述べてきました。
これらをしっかりと理解すれば、あとは簡単です。
V/Q比が正常の0.8〜1.2の範囲から逸脱している状態のことを換気血流比不均等といいます。
逸脱するとはどのような状態かといいますと、換気量が正常よりも増加したり、逆に減少したり、肺血流量が途絶えてしまったりするような状態のことです。
では、どのような疾患が換気血流比不均等を引き起こしてしまうのでしょうか?
◆ 換気血流比不均等を引き起こす代表的疾患とは?
換気血流比不均等を引き起こす疾患には、
などが挙げられます。
◆ COPDや肺炎が換気血流比不均等を呈する理由
COPDとは慢性閉塞性肺疾患のことで、末梢気道病変と気腫性病変に分けられます。
末梢気道病変とは慢性気管支炎によって末梢気道の気管支に炎症が生じた状態のことであり、気道壁の肥厚や粘液貯留によって気道の狭小化を来してしまう状態のことです。
気腫性病変とは喫煙など有害物質により肺胞が破壊されていき、肺胞弾性収縮力が低下することにより肺胞内圧が下降する状態のことです。
次に肺炎とは肺の炎症性疾患の総称をいいます。一般的には微生物感染によって生じる肺胞性肺炎のことを指します。
この両者ともに肺胞に障害が生じるため、肺胞換気量が減少する疾患です。
つまり、V/QのうちV(換気量)が減少することでV/Q比が0.8よりも小さくなり、換気血流比不均等を示してしまうのです。
◆ 肺塞栓症が換気血流比不均等を呈する理由
つまり、V/QのうちQ(肺血流量)が減少することでV/Q比が1.2よりも大きくなり、換気血流比不均等を示してしまうのです。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
内頸動脈梗塞の脳画像は分水嶺領域に着目すべき!
◆ 内頸動脈梗塞とは?
内頸動脈は、アテローム血栓性脳梗塞の好発部位として知られています。
- 血栓性機序
- 塞栓性機序
- 血行力学的機序
の3つがあります。
そのうち血行力学的機序による脳梗塞で、今回着目すべきポイントである「分水嶺領域」の梗塞が生じます。
アテローム血栓性脳梗塞の発症機序や好発部位について詳しくは以下の記事をご参考下さい。
◆ 内頸動脈とは?その解剖と走行
内頸動脈(ICA)とは前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)、前脈絡叢動脈、後交通動脈(P-com)に枝分かれをする主幹となる動脈のことです。
脳への血液供給は、内頸動脈と椎骨動脈の枝によって行われていますので、内頸動脈はとても重要な血管です。
内頸動脈の走行
まず、大動脈弓から腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本の枝が出ます。右側は腕頭動脈を介してから右総頸部動脈と左鎖骨下動脈に枝分かれをします。
このうち総頸動脈は、頸動脈三角内の甲状軟骨上縁のレベルで内頸動脈と外頸動脈とに分かれます。この分岐部には頸動脈小体が存在しており、血中の酸素や二酸化炭素の量を感知し、呼吸数の調整に関与しています。
また、内頸動脈の起始部は少し膨隆しており、ここに頸動脈洞と呼ばれる血圧受容器が存在しています。頸動脈洞は、血圧変化を捉えて血圧調整に関与しています。
総頸動脈から枝分かれをした後は、一切枝分かれをせずに頸動脈管を通過して頭蓋内に入って、ここで眼動脈を分岐します。その後、サイフォン部と呼ばれるU字状の蛇行を作って前大脳動脈と中大脳動脈に分岐します。
このサイフォン部もアテローム血栓性脳梗塞の好発部位として、よく知られています。
◆ 分水嶺領域とは?その特徴とは?
分水嶺領域とは、簡単に言うと境界領域のことで、各動脈の支配領域の境界にあたり、動脈から遠い位置にある脳の領域のことです。
脳梗塞の梗塞巣は、閉塞血管の支配領域に沿って出現するのが一般的です。
しかし、分水嶺領域の梗塞では、隣り合う血管からも血液が供給されるため、1つだけの血管閉塞では梗塞にならないことが多いのです。
その反面、血圧低下などで複数の血管の血流が乏しくなった際には、どの領域よりも早く分水嶺領域が梗塞巣となってしまう特徴があります。
◆ 分水嶺領域の場所と対応する障害とは?
分水嶺領域は下図の薄黄色印の領域になります。
つまり、大脳前方部では前頭前野、前上方部は前頭眼野・背側運動野・補足運動野、上方部は体幹や下肢の感覚・運動野、後方部は頭頂連合野にあたります。
まとめると、
- 前頭眼野の障害=眼球運動障害
- 背側運動野・補足運動野の障害=予測的姿勢制御の破綻、肢節運動失行
◆ 脳画像でみる分水嶺領域
大脳基底核レベルのMRI横断像では、下図のような血管支配領域を示します。
そのため、各血管支配領域の境界部が分水嶺領域となるのです。
ここからもう少し細かく分けると、
と分けることができます。
◆ 皮質型分水嶺領域
ACAとMCAの前方型とMCAとPCAの後方型に分けられます。皮質境界領域のことで、塞栓性によるものが多いとされています。
◆ 深部型分水嶺領域
ACA・MCA・PCAのような皮質領域を支配している皮質枝と深部領域を支配している穿通枝との境界のことです。血行力学性による分水嶺梗塞では、皮質型よりも深部型のほうが多いとされています。
◆ 実際の分水嶺領域梗塞症例
右図のMRI拡散強調画像で黄色で囲んだ部位に高信号域が認められます。ここはMCAとPCAの境界領域で、MCA-PCA後方型の皮質型分水嶺梗塞であることがわかります。
2つの血管が同時に障害されることで、出現すると推測される症状の数は一気に増えます。
今まで上図の画像評価で、後大脳動脈領域の梗塞だと思い込んでいたとしたら、これからは一歩踏みとどまって、分水嶺梗塞の可能性を考えるだけで治療や目標設定の展開が変わってくると思います。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
アテローム血栓性脳梗塞の発症機序を知ることで予後をある程度予測できる!?
◆ アテローム血栓性脳梗塞とは?
主に主幹動脈の動脈硬化(アテローム硬化)が原因となって引き起こされる脳梗塞のことです。
そのため、動脈硬化が進行している中高年に好発します。その他のアテローム性疾患、すなわち狭心症(不安定性狭心症・労作性狭心症)や心筋梗塞なども合併しやすく、併発していることが多いです。
危険因子としては、高血圧、糖尿病、LDLコレステロール高値、喫煙、大量飲酒などが挙げられ、メタボリックシンドロームとの関連が注目されています。
そのため、食生活の欧米化がアテローム血栓性脳梗塞の一要因ともなっており、生活スタイルの改善により発症リスクを低下させることができます。
◆ アテローム硬化の好発部位とは?
アテローム硬化の好発部位として、
- 内頸動脈起始部
- 内頸動脈サイフォン部
- 中大脳動脈水平部
- 椎骨動脈起始部・遠位部
- 脳底動脈中間部
が挙げられます。
大きく3つの機序に分けられます。
- 血栓性機序
- 塞栓性機序
- 血行力学的機序
これらの発症機序は単一で起こる場合もありますが、複合して起こる場合もあります。
◆ 血栓性機序
血栓性機序とは、アテローム硬化により狭くなった血管に血栓が形成されることにより、脳血管が閉塞して発症することです。
アテローム硬化によって、もともと狭くなっているため、血栓が形成される前から側副血行路が作られていることが多いです。
【側副血行路とは??】主要血管が閉塞した場合に、機能を代償するために生じる新たな血液循環経路のこと。
そのため、血栓が形成されて血管が閉塞しても側副血行路からの血液供給により梗塞巣は比較的狭い範囲に留まることが多いです。
◆ 塞栓性機序
塞栓性機序とは、アテローム硬化部の血栓が一部剥がれた塞栓子により、脳血管が閉塞して発症してしまうことです。
心原性脳塞栓症と似ていて、発症が急激かつ短時間で症状が完成します。そのため、側副血行路も未発達なので、硬塞巣は大きくなりやすいです。
◆ 血行力学的機序
血行力学的機序とは、主幹動脈に高度な狭窄があり、代償的に血管拡張や側副血行路が生じたことで、なんとか血流が維持されているところに、全身の血圧低下が起こると、脳血流が低下して脳梗塞を発症してしまうことです。
血行力学性による脳梗塞では境界領域に起こりやすいといわれています。
境界領域とは、各動脈の灌流域の境界にあたり、動脈から遠い位置にある脳の領域のことです。
この境界領域に生じた脳梗塞のことを境界領域脳梗塞または分水嶺(ぶんすいれい)梗塞といいます。
◆ 特徴的な画像所見とは?
アテローム血栓性脳梗塞では、中〜大サイズの比較的大きい梗塞巣が認められます。ときには境界不明瞭で、かつ複数みられることもあります。
しかし、アテローム硬化が少しずつ進んで、側副血行路が発達している場合には比較的、梗塞巣が狭く、境界が不明瞭なことがあります。つまり、同じ脳梗塞でも側副血行路が発達している場合では麻痺が比較的軽度で、ADLは自立レベルにまで回復することが多いということです。
脳画像のポイントとして、以下のような所見が認められます。
- 超急性期にはMRI拡散強調画像(DWI)が有用で、病巣は高信号域(白)となる。
- 急性期から慢性期ではCTで低吸収域(黒)となる。
- MRAでは脳動脈の狭窄像が認められる。
画像所見の種類や特徴、それぞれの見かたについてはこちらの記事を読んでみてください。
◆ 実際の画像所見
上記画像の左は健常人 MRI で支配領域を表していて、右はアテローム血栓性脳梗塞患者の MRI 画像です。
左中大脳動脈(MCA)領域に比較的大きな高信号域が認められます。
MRAでも左中大脳動脈領域に高度の血管狭窄像を示したため、アテローム血栓性脳梗塞であると診断されました。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
脳梗塞画像におけるCT・MRIの種類と利点・欠点について
◆ 用語のおさらい
- CT:computed tomography
- MRI:magnetic resonance imaging
- T1W1:T1 weighted image
- T2W1:T2 weighted image
- FLAIR:fluid-attenuated inversion recovery
- DWI:diffusion weighted image
- MRA:magnetic resonance angiography
◆ CTとMRIの呼び方の違い
意外と知らない方も多いと思いますが、CTとMRIでは白い部分と黒い部分の呼び方は違うのです。
CT画像では白い部分を高吸収域、黒い部分を低吸収域と呼びます。
MRI画像では白い部分を高信号域、黒い部分を低信号域と呼びます。
細かいことですが、医師やその他のスタッフとコミュニケーションをとるのに覚えておいて損はないと思います。
◆ CT画像の利点・欠点
CT画像は脳脊髄液と梗塞部位が低吸収域(黒)になる画像のことです。
CT画像では出血部位の把握には優れていますが、梗塞部位の把握には劣ります。
◆ T1強調画像(T1W1)の利点・欠点
T1W1は脳脊髄液と梗塞部位が低信号域(黒)になる画像のことなので、CT画像と似た見た目になります。
しかし、CT画像と比べると解像度が非常に高くて脳回や脳溝の形を把握しやすいのが特徴です。
一方で梗塞部位が目立ちにくいといった欠点があります。
◆ T2強調画像(T2W1)の利点・欠点
T2W1はCT画像やT1W1に反して脳脊髄液や梗塞部位が高信号域(白)になる画像のことです。
これに加えて脳実質はCT画像やT1W1に比べてさらに強く低信号域(黒)を示します。
T2W1は梗塞部位が高信号域(白)になり、しかも脳実質は低信号域(黒)になるので、脳実質部に梗塞を認めるとはっきりとわかります。
しかし、T2W1は脳脊髄液も高信号域(白)になるので、脳脊髄液付近に梗塞を認めると梗塞部位との鑑別が難しくなります。
◆ FLAIR画像(水抑制画像)の利点・欠点
FLAIR画像は脳脊髄液が低信号域(黒)になりますが、梗塞部位は高信号域(白)になる画像のことです。
つまり、脳脊髄液付近の梗塞部位も鑑別が可能になるので、T2W1の欠点を補った撮像法になります。
また、陳旧性の梗塞部位は低信号域(黒)になるので、新旧の鑑別にも有利です。しかし、発症後6時間以内のいわゆる超急性期の梗塞部位検出は難しい欠点があります。
注)脳室周囲や脳表など脳脊髄液に接した病変の検出においてT2強調画像よりも明らかに優れており、頭部MRIにおいては多くの施設でルーチンになっている撮像法である。
土屋一洋『改訂版 MRIデータブック』
◆ DWIの利点・欠点
今まで述べてきましたCT画像、T1W1、T2W1、FLAIR画像は発症後6時間以内の検出は困難であるとされていました。
しかし、DWIは発症後1時間から脳梗塞を検出できるのです。つまり、DWIは超急性期における脳梗塞をいち早く検出できる撮像法になります。
また陳旧性の梗塞部位は低信号域(黒)になり、目立たなくなりますのでFLAIR画像と同じく新旧の鑑別にも有利です。
しかし、DWIは解像度が低いので詳細な梗塞部位を把握する場合にはその他のMRI検査を併用します。
◆ MRA
MRA とは MRI を用いて血管の描出を行う方法のことです。
低信号か高信号は血流の速さによって決定されますので、血流速度が早い主幹動脈は高信号にはっきりと描出されます。
一方で穿通枝などの細い血管は描出されにくいので、主に主幹動脈の病変評価に使われます。
◆ 各撮像法による梗塞部位の見え方
*マークのついているところが病変部位です。
単純CT画像の病変部位は低吸収域を示しています。T2W1の病変部位は淡い高信号域を示しています。FLAIR画像では脳脊髄液が低信号域、病変部位は高信号域を示しています。
T2W1に比べてFLAIR画像のほうが明瞭にみえているのが分かります。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
- CT画像、T1W1は梗塞部位の把握には劣る。
- T2W1の脳脊髄液は高信号域、FLAIR画像は低信号域なので、脳脊髄液付近の梗塞部位を捉えるのにはFLAIR画像が適している。
- DWIは超急性期(発症1時間後から)の梗塞病変を捉えることができる。
MRAとは?どのように見れば良いの?
◆ MRAとは?
MRAとはMagnetic Resonance Angiographyの略で、日本語では「磁気共鳴血管画像」といいます。
MRAはMRIを用いて血管を撮影する方法のことで、造影剤を使用せずに血管を選択的に画像化することが可能な撮影法です。MRAで造影剤を使えば、さらに精度の高い画像になります。
◆ 脳血管の解剖と機能
脳血管は大きく前方循環系と後方循環系に分けられます。その名の通り、脳の前方を走っているのが前方循環系で、後方を走っているのが後方循環系です。
前方循環系とは総頸動脈注)から分岐する内頸動脈系のことで、後方循環系とは鎖骨下動脈から分岐する椎骨・脳底動脈系のことです。
注)左総頸動脈は大動脈から直接分岐しますが、右総頸動脈は腕頭動脈を介して分岐していきます。
出典:「病気がみえる Vol.7 脳・神経」
つまり、脳は内頸動脈(左右2本)と椎骨動脈(左右2本)の合計4本で栄養されています。
◆ 前方循環系の走行
内頸動脈(ICA)からは前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)、後交通動脈(P-com)、前脈絡叢動脈が出ていきます。
出典:「病気がみえる Vol.7 脳・神経」
前大脳動脈は後頭葉以外の大脳半球内側面を、中大脳動脈は後頭葉以外の大脳半球外側面を、前脈絡叢動脈は外側膝状体や内包後脚、扁桃体を栄養しています。
後交通動脈は後大脳動脈と内頸動脈を繋いでいる血管のことです。
◆ 後方循環系の走行
次に椎骨動脈(VA)からは後大脳動脈(PCA)、脳底動脈(BA)、後下小脳動脈(PICA)が出ています。
出典:「病気がみえる Vol.7 脳・神経」
後大脳動脈は後頭葉を、脳底動脈は脳幹を、後下小脳動脈は延髄と小脳下面を栄養しています。
またその他に中大脳動脈からはレンズ核線条体動脈(大脳基底核と内包前脚・膝)、後大脳動脈からは視床穿通動脈(視床と中脳)、脳底動脈からは上小脳動脈(中脳と橋、小脳上部)と前下小脳動脈(延髄と小脳下面)が分岐します。
◆ MRAの画像
また、三次元で表示できるので脳血管を立体的に見ることができます。しかし、交通動脈のように細い血管は狭窄・閉塞がなくても正常に写し出されないこともありますので、注意が必要です。
では、実際のMRA画像を見て場所を確認していきます。
◆ 今日のリハゴリ俱楽部
- 脳は前方循環系の内頸動脈系と後方循環系の椎骨・脳底動脈系で栄養されている。
- 前方循環系は前大脳動脈や中大脳動脈、後方循環系は後大脳動脈が含まれる。
- 細い血管は正常でも写し出されないことがある。
不安定狭心症とは?ACS概念や不安定プラークとは?
◆ 不安定狭心症の概要
心臓を栄養する冠動脈の中に不安定プラークが動脈硬化などの影響により作られ、この不安定プラークが破綻することで血栓が形成されて急激に冠動脈が狭窄して心筋虚血に至る疾患です。
重症な狭心症であり、心筋梗塞への移行や突然死のリスクがあるため早急な対応が必要になってきます。
◆ 不安定狭心症のメカニズム
不安定プラークとは血管内膜と外膜の間にコレステロールなどが入り込んで非常に柔らかく破綻しやすいものです。破綻すると血栓を形成して、血管の狭窄・閉塞が急速に進行してしまいます。
大動脈のような太い動脈では、このプラークが血管を狭窄することはないのですが、冠動脈のような中型動脈では内腔の狭窄を引き起こします。
それとは逆に「安定プラーク」もあります。
安定プラークはアテロームが硬くなった状態のことで、破綻しにくくなっているのですが、内腔の狭小化によって血管を狭窄してしまいます。
この両者の違いは線維性被膜の肥厚程度です。
不安定プラークの場合、線維性被膜は薄いので少しの刺激でも破綻しやすいのです。
◆ 狭心症が増悪して心筋梗塞ではない
従来の考え方では動脈硬化が進行することで労作性狭心症を発症、そして最終的には急性心筋梗塞に陥るという流れが考えられていました。
しかし、発生機序の解明によって、急性冠症候群(ACS)という概念が作られ、労作性狭心症と急性心筋梗塞はそれぞれ独立しているものと考えられるようになりました。
◆ 急性冠症候群(ACS)の概要
前述した不安定プラークが破綻して、そこに血栓が作られていき、血管が狭窄・閉塞する疾患のことです。
血栓が血管を狭窄して閉塞まではしていない場合には不安定狭心症、完全に閉塞してしまった場合を急性心筋梗塞と考えられています。
◆ 不安定狭心症の臨床症状
- 労作時・安静時の前胸部痛
- 胸骨後部の胸痛
- 下顎、頸部への放散痛
- 左肩もしくは両肩への放散痛
- 心窩部痛
時間としては長く、だいたい数分~20分程度の胸痛が出現します。
◆ 不安定狭心症の治療法
発作時には他の狭心症と変わらず硝酸薬(ニトログリセリン)を舌下投与します。
心筋梗塞のリスクが低い場合には、
- アスピリン(抗血小板薬)
- ヘパリン(抗凝固薬)
- β-遮断薬
- Ca拮抗薬
- スタチン
心筋梗塞のリスクが高い場合には、冠動脈造影により経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行を判断します。
PCIが困難であれば、冠動脈バイパス術(CABG)を実施することもあります。
◆ 今日のリハゴリ倶楽部